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920MHz帯LoRaと国内規制

920MHz帯を利用するLoRa通信モジュール「E220-900T22L(JP)」が話題になっていますので、日本国内での規制について解説します。

920MHz帯無線局は、移動体識別用のパッシブ系と、テレメータすなわIoTおよびテレコントロールすなわち制御信号の送信などで用いられるアクティブ系に大別されます。なお、データ伝送はアクティブ系に含まれます。

さて、今回話題になっている製品は、アクティブ系に分類され、920.5MHz~923.5MHzについて陸上移動局(免許局もしくは登録局)での運用となります。ただし、空中線電力は250mW以下です。

具体的な規制は、無線設備規則第49条の34第1項により、

一 通信方式は、単向通信方式、単信方式、複信方式、半複信方式又は同報通信方式であること。

二 空中線系を除く高周波部及び変調部は、容易に開けることができないこと。

三 空中線電力は、二五〇ミリワット以下であること。

四 送信空中線は、その絶対利得が三デシベル以下であること。ただし、等価等方輻射電力が二七デシベル(一ミリワットを〇デシベルとする。以下第七号において同じ。)以下となる場合は、その低下分を送信空中線の利得で補うことができるものとする。

五 無線チャネルは、単位チャネル(中心周波数が九二〇・六MHz以上九二三・四MHz以下の周波数のうち九二〇・六MHzに二〇〇kHzの整数倍を加えたものであつて、帯域幅が二〇〇kHzのチャネルをいう。第七号並びに別表第一号注34(6)、同注35、別表第二号第56及び別表第三号24(3)において同じ。)を一又は二以上同時に使用するもの(同時使用可能な最大チャネル数は、五とする。)であること。

六 総務大臣が別に告示する技術的条件に適合する送信時間制限装置及びキャリアセンスを備え付けていること。

七 無線チャネルに隣接する単位チャネルにおける送信装置の隣接チャネル漏えい電力は、(-)五デシベル以下であること。

以上です。型番の末尾22L(JP)が陸上移動局、末尾22S(JP)が特定小電力無線局に向けられた製品であることに十分注意してください。

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イオン移動度分光法(IMS)を用いる分析装置の価格について

空港の保安検査場では、違法薬物や爆発物検知の需要が非常に高く、各国の政府は様々な装置を導入してきました。

これらの目的で運用される装置の中で三種の神器というべきものが、①X線撮影装置(XP)、②イオンモビリティ式違法薬物・爆発物検査装置、③金属探知機です。

このうち、X線撮影装置(XP)に関しては、電池や液体の取り出しが検査場のスループットを低下させるため、フラットパネルディテクタ技術の革新とともに、2種の管電圧の線源を用いた原子番号解析機能付きX線CT(取り出し不要)への置換が進んでいます。

また、金属探知機は、ミリ波ボディスキャナが登場しました。もっとも、ミリ波ボディスキャナは「係員の目に体型が曝される」などとしてプライバシー侵害であるといった問題提起も盛んであり、市場規模は広がりませんでした。

さて、イオンモビリティはどうでしょう。この装置は、テロとの戦いを契機に技術革新が進み、保安検査業界で最も成功した分野といえます。千葉県の空港の改札前にも置いてあるあの青くて小さな箱です。

海外の空港では、ターミナルの入口で10人や20人ごとのグループに分けられ、係員が手荷物や衣服を紙で拭いこの装置で検査するという方式もありますが、とにかく操作が容易で高感度という特徴があります。

価格はどうでしょう?英国Smiths Detection社のIONSCAN 600の調達情報を確認してみると「令和6年度不正薬物・爆発物探知装置の調達二式」が約8,228万円で落札されていることから、ユニットコストは4,000万円程度とみられます。日立ハイテク製の同等品も8式の調達で1式あたり4,000万円程度であり、メーカーごとの差は小さいようです。コミックマーケットの会場で保安検査ごっこをするには少し高い気がします。

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名誉毀損と名誉権侵害の異同

近年、名誉権侵害をテーマとする訴訟が提起されることも多く、その背景として、匿名SNS上でのトラブルが挙げられます。

これについて、先日、某地方裁判所の判事が「名誉毀損は客観的評価、名誉権侵害は自己評価」という非常に簡潔な見解を示されました。

実務上、名誉権侵害が名誉感情侵害のみに限局されることに鑑みれば、これは非常に簡潔かつ示唆に富む考え方であり、教科書の表紙に書いてもよいなと感じましたので共有させていただきます。

ただし、これをそのまま民法の試験で書くのはNGと思われます。

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IoTデバイス向け移動体通信サービスの比較(非広告・非利益相反)

弊社圃場の観測機器更改に伴い、通信サービスを新たに選定することになりました。

「最安値 データ通信SIM」などと検索しても、あまりに検索結果が汚染されており、「比較サイト」を称するblogなども事実のかけらもない滅茶苦茶な記事しか書きません。

通信業界はコンプライアンス軽視が著しいと言わざるを得ません。もっともNTT東西会社のようにちゃんとした社もあるとは思いますが、末端まで監督できているとは到底いえないでしょう。

本題に戻ります。本当に安いのは法人向けの上り優先回線でした。

楽天コミュニケーションズ様の「上り優先タイプ」は、上り速度がベストエフォート、下り速度が200kbpsのサービスです。月額料金は最低の1GBで280円、10GBで420円、30Gbで740円、100GBで1,850円、最大の400GBで6,590円などとなっています。事務手数料にあたる「SIM初期発行手数料」が税抜き3,000円/SIMカード枚数となっているようです。

では他の法人向け事業者はどうかと思い、IoTデバイス向け通信サービスで有名なS社様のプランを見てみたのですが、コンシューマ向け通信サービスと大差ありませんでした。ただ、S社様は通信サービスだけでなく、付随するデータ処理サービスも展開しており、単純に比較はできません。

なお、コンシューマ向け通信サービスで最安のものは、日本通信様の「合理的みんなのプラン」および「合理的50GBプラン」で、それぞれ20GBで1,390円および50GBで2,178円と他の通信事業者を凌駕しています。

音声つき回線は、IoTに使用する場合にはSIM窃取などのリスクを考えなければなりませんが、個人で契約するのであれば日本通信様が第一選択となるように思われます。

本記事は、第三者からの資金提供を受けておらず、利益相反はありません。

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2025年春のUSB Type-C OTGアダプタ入手キャンペーン

明けましておめでとうございます。2025年になりました。

さて、当社では、年末のコミックマーケットにてみんなのラボ様から頒布された「GROVE対応シリーズで始めるAndroidスマホ電子工作入門」を拝読いたしまして、弊社圃場のIoTシステムの改良にAndroidスマートフォンとGROVEを利用できないか、検討を進めているところです。

また、そのためのデバイスである「GROVE対応USBドングル・USB-I2CブリッジボードV2【MR-GROVE-USBDONGLE】」を購入したのですが、USB Type-C Type-A変換OTGアダプタが必要になったため、100円ショップでの販売状況を確認することにしました。

調査地は100円ショップの聖地である池袋です。池袋には、大手三社すなわちダイソー(株式会社大創産業、広島県東広島市、6249億円)様、セリア(株式会社セリア、岐阜県大垣市、売上高2232億円)様およびキャンドゥ(株式会社キャンドゥ、東京都新宿区、売上高803億円)様の店舗が集積しており、いずれも小規模店舗ではありません。

結論から申し上げますと、ダイソー様とセリア様には在庫がありました。キャンドゥ様には在庫がなく、取扱いがあるかも現時点で不明です。

上記はダイソー様の製品です。下記はセリア様の製品になります。いずれも袋から製品を取り出してスキャンしたものです。

ダイソー様のものはアルミ合金の筐体、セリア様のものは樹脂製の筐体となっています。価格はいずれも税込み110円です。

内部規格には特段の差異がないと考えたのですが、よく確認すると、ダイソー様のものはUSB3.1あるいはUSB3.xに対応するIO仕様とみられます。

今回の使用目的ではUSB3.xへの対応は求められないため割愛しますが、念のためお知らせすることにしました。それでは、本年もどうぞよろしくお願いいたします。

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氏名不詳者を対象とする訴訟の提起と調査嘱託について

SNSでのトラブルに端を発する事件では、氏名不詳者を相手方とする訴訟の提起が必要となる場面も少なくないように見受けられます。

訴状には、当事者および法定代理人(民事訴訟法134条2項1号)と、請求の趣旨および原因(同条2項2号)の記載が必要と規定されています。

民事訴訟規則でも「当事者の氏名又は名称及び住所並びに代理人の氏名及び住所」(規則2条1項1号)となっています。

しかしながら、我が国が弁護士強制主義をとっていないことに鑑みれば、また、後述するように被害者の権利の保護の観点から、緩やかに解釈して差支えないでしょう。

これらの規定は、訴訟経済上、形式面での審査の必要から規定されたものであるとみるべきで、不明の相手方からの法益侵害を被ったけれど、たとえば官公庁しか加害者の氏名住所を知り得ない…といった状況において門前払いでは非情に思え、救済の要請も十二分に存在するといえます。

実務ではどうでしょうか。裁判例ではありますが、東京高等裁判所・平成21年12月25日は、「当事者は,氏名及び住所によって特定するのが通常であるが,氏名は,通称や芸名などでもよく,」としています。

もっとも、上記裁判例は、氏名不詳者を相手方とする訴訟を正面から許容する趣旨ではありません。

これについて、氏名不詳者を相手方とする訴訟の容認可否の分水嶺としては、名古屋高等裁判所金沢支部・平成16年12月28日があります。

ここでは「被告の特定について困難な事情があり(略),被告の特定につき可及的努力を行っていると認められる例外的な場合には(略),上記の調査嘱託等をすることなく,直ちに訴状を却下することは許されないというべき」としています。

これを受けて、近時は、①23条照会、②氏名不詳者を相手方とする訴訟の提起、③釈明処分としての調査嘱託(民事訴訟法151条1項6号)というステップを踏むことが主流となっています。

なお、23条照会については、多くのSNS事業者が応じていないのが実情で、このことは通信の秘密(憲法21条2項後段)からも当然の応答と考えられます。

当然ながら、個人は23条照会を行い得ないため、個人が訴訟を行う場合(本人訴訟)でも、弁護士が受任する場合でも、実質的に同一のステップを踏むことになります。

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ベラルーシ共和国における邦人拘束事案と海外渡航安全について

報道各社および外務省からの情報によれば、2024年12月1日、ベラルーシ共和国南東部のホメリ州にて鉄道写真を撮影していた男性が、スパイ行為の容疑で現地の警察に拘束され、その後КГБ(Комитет государственной безопасности *¹、ベラルーシの情報当局)に逮捕されたとのことです。

ホメリ州においては、2024年9月にも邦人の日本語教師がスパイ容疑で逮捕されています。なお、ホメリ州はロシア連邦による武力侵攻を受けて戦争状態にあるウクライナと国境を接しています。

ベラルーシ共和国とウクライナの関係は、直接の交戦がないとはいえ、ベラルーシ共和国がロシア連邦に対して兵站(ロジスティクス)面で支援をしていることから、敵対関係にあると評価することができます。

このような中で渡航を決断することの危険性は周知のことと思われますが、鉄道・港湾施設・空港施設などのインフラ施設の写真撮影自体が極めて危険であるという点には留意すべきです。

当社においては、東欧地域に設置されたデータセンタ施設の安全性評価のため各種情報を収集しているところですが、ベラルーシ共和国の鉄道系労働組合にあたるСЖБ(Сообщество железнодорожников Беларуси、ベラルーシ鉄道労働者組合)のウェブサイトに掲載された事案の概要における記述には特に注目しています。

что так называемая «охота на ведьм», начатая на БЖД более 4 лет назад, не прекращалась ни на минут и продолжается по настоящее время. В подтверждение этому может служить сулимая руководством БЖД награда «за голову» выявленного гипотетического «шпиона» или «диверсанта».

すなわち、スパイ行為を通報した列車の運転士の動機は「小遣い稼ぎ」のためだという主張です。СЖБが反体制派の労働組合であることには留意が必要ですが、旧ソ連の地域においてはさほど珍しいケースではありません。

このようなトラブルがしばしば発生する地域としては、ベラルーシのほか、ロシア連邦、カザフスタン共和国、クルグズスタン(キルギス共和国)およびラトビア共和国が挙げられます。

ラトビア共和国は、現在では西側諸国とされていますが、ロシア連邦による侵略を現実の脅威として認識しており、鉄道写真の撮影が規制されています。欧米人やアジア人であっても逮捕されるケースは多いとされています。

他方、東側諸国や旧東側諸国でも、中華人民共和国、ベトナム社会主義共和国、ラオス人民民主共和国、モンゴル国やウズベキスタン共和国では鉄道写真の撮影からトラブルに発展することは稀であるとの認識を有しています。

政情不安の地域に渡航する際、ましてやインフラ施設を撮影する際には、こうした状況をよく認識したうえで、自らがСпионの嫌疑を晴らすだけの言語能力を有しているか確認するべきでしょう。0でなければ100だというのが旧ソ連の常識です。

*¹ ベラルーシ語ではКДБ(Камітэт дзяржаўнай бяспекі)

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Google PixelでGcamアプリケーションが停止を繰り返す問題と対策

前回の記事で紹介したGcamアプリケーションですが、最近のAndroid15アップデート配信後に問題が発生しているようです。具体的には、起動後数秒でアプリケーションが停止するというものです。

再インストールにより解決するとの報告もありますが、アプリケーションのバージョンを変更することで問題が解消することを確認しました。

前回の記事で紹介したバージョンは、Gcam_8.8.224_V4.0-MWPでしたが、今回インストールし検証したバージョンは、Gcam_8.8.224_V5.0-MWP.apkです。MD5ハッシュ値は16ec5a96db7510f02f42bf54bafc4dd9です。

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航空法における危険物輸送の規制

離島など航空貨物が第一選択となる地域においては、宅配便などでも可燃物の引受けが拒否されることが知られています。

その法的根拠としては、「爆発性又は易燃性を有する物件その他人に危害を与え、又は他の物件を損傷するおそれのある物件で国土交通省令で定めるものは、航空機で輸送してはならない(航空法86条1項)」が挙げられます。

おおむね下記の物品が規制を受けることとなっています。

・火薬類 火薬、爆薬、火工品その他の爆発性を有する物件
・高圧ガス(引火性ガスおよび毒性ガス)
・上記以外のガスであって液化ガス又は摂氏二十度で
 ゲージ圧力二百キロパスカル以上となるもの
・引火性液体
・可燃性物質類(可燃性物質、自然発火性物質、
 水反応可燃性物質、酸化性物質および有機過酸化物)
・毒物類(毒物、病毒を移しやすい物質)
・放射性物質等(放射性物質および汚染された物件)
・腐食性物質(典型例はエポキシ樹脂溶解剤)
・その他の有害物件

規制範囲は、高圧ガス保安法、消防法、毒劇法、放射性同位元素等規制および感染症法で規制または指定された物質を網羅するものと認識してよいと思われます。

他方、離島地域の特性に応じた例外規定もあり、劇物指定の錠剤のほか、医療用酸素ボトルや診断用のテクネチウム99m注射液ジェネレータなどがこれにあたります。これらは輸送時に適切な防護措置を講ずる必要があります。

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刑の種類と行政処分

昨今,なかなか世の中が物騒になってまいりました。

彼ら彼女らにも被害者としての側面はあるのでしょうが,いずれにせよ長期の刑に服することを免れるすべはないでしょう。

さて,刑にはどのような種類があるのでしょうか。罰金刑,懲役刑のほかに死刑があることはみなさんご承知のとおりかと思われます。

講学上の話をするならば,主刑と附加刑というものがあります。主刑は「財産刑」,「自由刑」のほか「生命刑」に分類されます。財産刑は財産を,自由刑は自由を,生命刑は生命を奪う刑罰です。

財産刑としては「罰金」(刑法15条),「科料」(17条,「かりょう」または「とがりょう」と読みます)があります。罰金や科料を納付することができない場合には換刑処分として「労役場留置」(18条1項,同2項)があります。これも刑罰に含まれます。

自由刑としては「懲役」(12条),「禁錮」(13条)のほか「拘留」(16条,「こうりゅう」または「てこうりゅう」と読みます)。懲役と禁錮は2025年に「拘禁刑」に統合される見通しです。

生命刑は「死刑」(11条)のみです。

附加刑は「没収」(19条,「ぼっしゅう」と読みます)があります。没収ができないときは「追徴」(19条の2)ができます。

なお,厳密な話をするならば,没収は刑罰ではなく行政処分です。没収には「触法行為組成物の没収」(少年法24条の2)もあります。

また,保釈条件違反に対する制裁としての「保釈保証金の没取」(刑事訴訟法96条2項,同3項,「ぼっしゅ」または「ぼっとり」と読みます)もありますが,刑罰ではありません。

注意すべきは「過料」(各法令や自治体条例などに規定あり,「かりょう」または「あやまちりょう」と読みます)が刑罰でなく民事罰であることです。納付しないからといって換刑処分としての労役場留置はできず,債権債務の問題となります。

実は,刑罰に似ているけれど刑罰でないものは他にもあります。公職に就く資格を制限する規定(国家公務員法38条,地方公務員法16条のほか学校教育法9条)が典型的です。

また,いわゆる公民権停止として知られる「選挙犯罪による処刑者に対する選挙権及び被選挙権の停止」(公職選挙法252条)といった規定もありますが,これも刑罰とは性格を異にするものです。

「逮捕」(刑事訴訟法199条以下)は刑罰ではありません。もっとも,巷の人々は逮捕を刑罰の一種であるかのように考えているようです。